最終更新日: 08/06/2025
望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らすためには?
4. トレーニング
モルモットは「しつけられない」「覚えられない」「学習しない」などとよく言われます。学術の世界でも、他の齧歯類より訓練が難しいとされており[1]、行動実験※1の報告数はラットと比較すると2025年現在でも0.6%に満たないのです(PubMed: rat & operant vs guinea pig & operant, c.f. [2])。
しかし、実際にモルモットと暮らしていると、彼らが数多くのことを「覚えた」(学習した)ことに気づくでしょう。例えば、
- ヒトが近づくと:接近する/立ち上がる/ケージの入り口から顔を出す(1)
- 冷蔵庫の開閉音に対して:鳴き声をあげる/立ち上がる/ケージの入り口から顔を出す(2)
- グルーミング用のグローブを取り出すと:「グルルル」と鳴く/飼い主から離れる(3)
こうした行動はモルモットがすでに「学習した」ことを示しています。1と2では各行動に後続して好物が貰える/貰えたことがあるのでしょう。3ではより古典的な学習※2が行われたようです。おそらく、グローブ(のゴムの匂い)が不快(くすぐったい?)と結びついた(対呈示されることでグローブのゴムが身体に触れなくてもグローブの匂いがするだけで警戒音を発声したりグローブから逃げたりする)のでしょう。
このように、モルモットは特定の行動を増加/減少させることができます。ただし、
- なんでもできるわけではない
- いつでもできるわけではない
- いつまでもできるわけではない
- 個体差あり
ということを理解しておきましょう。あなたのモルモットに何かを覚えさせたい場合、
- モルモットの習性
- モルモットの身体的な限界
- あなたのモルモットの好物
- あなたのモルモットの傾向・癖
- 行動の直後に好物を与える
これらを事前に把握しておく必要があります。これにより、モルモットが何をできるか(できないか)、モルモットに負荷を与えることなく判断し訓練できます。
それでは、いくつか事例を見てみましょう。
※2:【レスポンデント(的な)条件づけ】他の刺激と対呈示しなくても反射を引き起こす無条件刺激(皮膚への刺激:ゴムのトゲが皮膚に刺さる、逆毛)、皮膚への刺激によって引き起こされる反応は無条件反応(身をよじる)とする。皮膚への刺激(無条件刺激)と対呈示することで警戒音を発声したり逃げ出したりするようになったゴムの匂いは条件刺激という。条件刺激のみの提示によって引き起こされる反応(警戒音の発声・逃げ出す)を条件反応という。条件刺激を無条件刺激と対提示する手続きをレスポンデント条件付けという([3])。
4-1. トイレトレーニング
まずはご自身のモルモットの排泄場所に規則性があるか確認しましょう。
モルの場合、トイレでくつろぐことが多く、四隅で自分の臭いが強く残る場所に排泄する傾向がありました。これを利用してトイレトレーニングを行いました。具体的には図1のような三角形のトイレを用意し、それ以外の場所で排泄をした場合はすぐに取り除くかトイレに溜めるようにしました。トイレに溜まった糞尿は溢れるまで捨てずにおきました。糞尿以外にも糞尿のついたチモシーも使いました。
その結果、モルは数日で排泄の9割をトイレで行うようになりました。ただし図3~5の通り、トイレ以外の場所や私の膝の上で排便してしまうこともありました。私としてはそれすら可愛くて仕方なかったのですが。9割の排泄物が決まった場所に溜まっていると掃除はとても楽でした。しかし、それも2歳半頃まで。体調を崩したことで、徐々にトイレ以外の場所での排泄が増えていきました。モルモットもヒトと同様に、病気(の衝撃?)や加齢によって「できなくなってしまう」ということがあるようです。
メルの場合、モルと同様にトイレでくつろぐことが多いものの、ケージ内のいたるところに糞を撒き散らす傾向がありました。トイレでくつろいだり食事したりしていたので(図6~12)、この癖を使ってモルと同様、トイレにのみ排泄物を溜めるようにしました。しかし、トイレ以外の排泄物をどんなに迅速・頻繁に回収しても「勝手なことするな!」と言わんばかりに、回収したそばから、すぐに排泄されました。自分の排泄物で縄張っているのかもしれません。トイレにのみ餌を置いたりしてみましたがダメでした。
至る所に排泄し場合によっては排泄物の上で寝ることもありました。メルは全身が白いので汚れが目立ちました(図13)。
レムの場合、元々気性が荒いため(勢いよく走り回る、牧草に潜り込む、トンネルを頭で跳ね飛ばす、など)、ケージ内は必要最低限の物のみ配置しました。彼が最も安全で汚れにくい環境を優先した結果、トイレの設置・トイレトレーニングは諦めました。
4-2.「懐いた!」を増やす
モルモットは人懐こいとよく言われます。我が家ではモル > レム > メルの順で懐っこいと言えます。ただし、元からいわゆる人懐こかったのはモルのみです。
モルの場合は、特に意図的な訓練をせずとも、餌がなくとも、まるで「撫でてください」と言わんばかりに、我々の元によく寄ってきました。
メルの場合、餌や餌がもらえる気配(冷蔵庫の開閉音や餌の匂いなど)がなければ、近寄ってくることは絶対にありませんでした。ただし次の動画のようにおでこを撫でられると目を細めて(時にはグルグル言いながらも)されるがままでした。
レムは今、訓練中です。彼と私たちとの関係において、最も「問題」なのが「噛み癖」だったのですが、訓練の甲斐あってヒトや服を噛む行動を減らし舐める行動が増えてきました。
ちなみに本セクションで「懐く」「懐いた」とは、「飼い主が餌を持っているか否か」に関わらず、
- 自ら飼い主に寄ってくる
- ケージから顔を出す
- 著者が頭を撫でても警戒音を出したり避けたり跳ね除けたりしない
といった行動・状態を指します。それでは彼らを懐かせる手順をご紹介します。ここでは「飼い主の膝の上に乗り身体に手を掛けて鼻先を上げる」ことを最終目的とします。
スモールステップを積み重ねます。
ちなみに多くのモルモットに、
- ヒトに接近する
- 立ち上がる
傾向があると思います。その直後に餌をくれた経験があるからでしょう。動物園やアニタッチに行くとこれらの傾向を確認できます。ここではこの2つの傾向を使って、まずはステップ1:
膝の上に手をかけるを学習させましょう。図14をご覧ください。彼らが接近し飼い主の膝に手を乗せたらすぐに好物(我が家では小分けにした牧草代用ペレット)を与えます。なお、図14では「膝の上」と記載されていますが、別に脚のどこでも構いませんし、手や腕でも構いません。
肝心なのは「増やしたい行動」(ターゲット行動、ここでは「膝の上に手を乗せる」)が出現した直後に好物を与えることです。これを2, 3回繰り返すだけで、ターゲット行動は増加します。また、増加するだけでなく、行動直後に好物を与えなくてもしばらくの間続きます。
次に、ステップ2: 膝の上に乗るを学習させましょう。図15をご覧ください。すでに「膝の上に手をかける行動」は確立されていますが、膝の上に乗らせるためには膝の上に手を掛けただけでは好物を与えず、好物の香りで膝の上まで誘導させます。膝の上に乗ったらすぐに好物を与えます。これをやはり2, 3回繰り返すだけで、ターゲット行動(ここでは「膝の上に乗る」)は増加・定着します。
続いて、ステップ3: 膝の上でお腹に手をかけるを学習させましょう。図16をご覧ください。すでに「膝の上に乗る行動」は確立されていますが、膝の上に乗ったらすぐに好物を与えず、飼い主自身の体のそばに手をつくよう、好物を用いて誘導します。モルモットが飼い主の腹部に手を置いたらすぐに好物を与えます。これをやはり2, 3回繰り返すだけで、ターゲット行動(ここでは「膝の上でお腹に手をかける」)は増加・定着します。
最後に、ステップ4: お腹に手をかけたまま後ろ足で立ち上がるを学習させましょう。図17をご覧ください。すでに「膝の上でお腹に手をかける」行動は確立されていますが、後ろ足で立ち上がるよう好物を用いて飼い主の胸部付近に誘導します。モルモットが後ろ足で立ち上がり、手を飼い主の胸部方向に少し移動させたら、すぐに好物を与えます。これをやはり2, 3回繰り返すだけで、ターゲット行動(ここでは「お腹に手をかけたまま後ろ足で立ち上がる」)は増加・定着します。
4-3.「噛まれた!」を減らす
準備中
4-4.「おやつの与えすぎ」を減らす
準備中
4-5. 無効な訓練
準備中
参考文献
- [1] Ojima, H., & Horikawa, J. (2016). Recognition of modified conditioning sounds by competitively trained guinea pigs. Frontiers in Behavioral Neuroscience, 9, 373, doi:10.3389/fnbeh.2015.00373.
- [2] 小島久幸. (2017). 行動に関連した神経ネットワーク;音脈分擬の基盤をなす音節間の時間間隔を脳に見る. KAKEN 2016年度研究成果報告書.
- [3] 杉山尚子., 島宗理., 佐藤方哉., Malott, R. W., & Malott, M. E. (1998). 行動分析学入門, 産業図書.